NBAのホームコートアドバンテージ分析、トラッキングデータを活用した発展的ディフェンス評価指標に関する論文紹介

本記事は、スポーツアナリティクス Advent Calendar 2022の11日目の記事です。

導入

1年前、2年前、3年前の記事に引き続いて、今年もゆるく「NBA × データ活用」に関する記事となります。

今年は、読んでみて面白いと思ったNBAに関連する論文を2本紹介する記事です。

それでは、早速紹介します!

論文紹介1本目: The Effects of the NBA COVID Bubble on the NBA Playoffs: A Case Study for Home-Court Advantage

arxiv.org

一つ目に紹介するのは、NBAにホームコートアドバンテージはあるのか?という問いに着目している論文です。

このテーマに興味を持ったのは、過去のSpoAna Meetupで、LTされていた”無観客試合におけるホームコートアドバンテージ”を拝見したのがきっかけでした。

無観客試合におけるホームコートアドバンテージ / Crowd effects under COVID-19 pandemic

こちらの発表では、主にサッカーリーグに着目して、観客の有無が勝敗にどれくらい影響を及ぼすのか?ということが共有されていました。

同様の現象がNBAでも起こるのか?という疑問を持っていた中で似たような研究が公開されていたので、今回はそれを紹介します。

本論文でも同様に、パンデミック影響下で行われた無観客試合(season in bubble)と、その他の普通の試合でのチームのパフォーマンスを比較分析しています。

https://www.nytimes.com/wirecutter/blog/marc-stein-nba-quarantine-gear/

この論文が面白かったポイントとしては、シンプルに観客の有無が勝敗に影響を及ぼしているのか分析するだけでなく、チームごとのオフェンスのパフォーマンスをブレークダウンしていることが挙げられます。

具体的にいうと、論文の中では下記の項目が観客の有無を軸に比較されています。

  • ホームチームの勝敗
  • 得点力 (ホーム vs アウェイ)
  • 2ポイントシュート (ホーム vs アウェイ)
  • 3ポイントシュート (ホーム vs アウェイ)
  • フリースロー (ホーム vs アウェイ)

このように、観客の有無がどのような観点で、選手のパフォーマンスに影響を及ぼしているのか?というのが検証されていて非常に興味深かったです。

分析の結論を一部ピックアップすると下記のようなことが記載されていました。

  • 無観客試合におけるホームチームの勝率が大きく低下
  • 無観客試合では、アウェイチームが普段と比べて、得点を多く獲得した。特に、2ポイントシュートでその傾向は顕著に見られた。
  • etc...

これらの結果を見ても、バスケットをやったことがある人には、かなり直感的で納得感のあるものであることがわかると思います。

蛇足ですが、この論文について過去にポッドキャストで話したことがあるので、興味がありましたらこちらのエピソードも聴いていただければと思います…

‎DD Garage - デザイナーとデータアナリストによる雑談番組:Apple Podcast内の#35 NBAにホームコートアドバンテージはあるのか?

論文紹介2本目: Counterpoints: Advanced Defensive Metrics for NBA Basketball

二つ目に紹介するのは、選手のトラッキングデータを用いて新たなディフェンス評価指標を作ることができるのではないのか?という提案がなされている論文になります。

http://www.lukebornn.com/papers/franks_ssac_2015.pdf

NBAでは数多くのデータが取得されています。 個人的に、その中で最も興味深いのが、選手のトラッキングデータです。 毎秒、多くのレコードが観測され、非常にリッチな情報にアクセスが可能になっているものの、実際にそのデータがどのように活用されているのか?といったことはそれほど明らかになっていない、と思っているからです。

ラッキングデータ可視化イメージ (https://github.com/linouk23/NBA-Player-Movements)

この論文では、トラッキングデータを活用して、任意の時点における選手間のマッチアップを推定して、各ディフェンダーが攻撃側に対してどのように影響を与えているのか?ということを測ろうとしています。

興味深いポイントとしては、トラッキングデータをディフェンダーの評価に活用しようとしていることにもあります。

論文では、昨今の選手の評価がオフェンスに偏重しすぎていること、トラッキングデータを活用することで、ディフェンダーの活躍にも着目するべきである、ということが批判的に名言されているのも、非常に共感できるポイントでした。

(論文より一部抜粋...) However, try to look up who had the most points against in 2013/14, or who prevented the most shots from being taken that year, and the history books are, remarkably, empty. we attempt to explain defensive ability through statistics only loosely related to overall defensive ability, such as blocks and steals. Alternatively, we quote regression-based metrics such as adjusted plus/minus which give no insight into how or why a player is effective defensively

マッチアップの推定手法

ディフェンダーのパフォーマンスを測定するにあたり、「誰が誰を守っているのか?」ということを明らかにすることは非常に重要になってきます。

この論文では、ディフェンダーの位置、オフェンダーの位置、ボールの位置、バスケットゴールの位置を入力として、隠れマルコフモデルを用いて高精度のマッチアップ推定を達成したことが書かれていました。

実際のデモンストレーションは下記の口頭発表の5分40秒あたりで提示されていましたので、興味があればご覧ください。 (サンプルは少ないものの、かなり納得感のある推定結果が得られていそうでした。)

SSAC15: Counterpoints: Advanced Defensive Metrics for NBA Basketball - YouTube

発展的なディフェンス評価指標“Counterpoints”

Counterpointsとは、ポゼッションあたり、各ディフェンダーがどの程度スコアを許しているのかを示すメトリクスになります。

この指標がユニークなのは、一つの守備の中で、時点ごとにマッチアップが変化することを考慮しているポイントです。

「時点ごとにマッチアップが変化する」とはどういうことなのか?というと、 代表的なものとして、”スイッチディフェンス”が挙げられます。 スイッチディフェンスとは、同一のポゼッションの中で、マッチアップを変えることで効率的に守備を展開することです。

この結果、例えば、シュートが放たれた瞬間だけのマッチアップを計測してしまうと、背が高い選手(ゴール近辺を守る傾向にある選手)が多くのシュートを許す傾向が多く計測されてしまうという難点があります。

そのため、ここでは、シュート時点までの経過時間を考慮し、マッチアップしている時間に応じて許してしまった得点を算出するというアプローチが採用されています。

実際に選手ごとに測定し、バックコートの選手に絞り込んだ際のランキングが下の表のようになっています。

"Fractional"となっているカラムが最終的な指標です。一方"Shot"となっているカラムがシュートが放たれた時点に限った数値となっています。

上位には、当時現役Top選手だった"Chris Paul"がランクインしていて、かなり納得感のある数値がみられます。 また興味深いポイントとしては、"C.J. Watson"というプレイヤーがShotの数値では19.3、Fractionalの数値が12.0と数値が向上していることです。 このように、ナイーブにシュートを打たれてしまった時点だけで計測する場合と、ポゼッション内の時間を考慮した場合では評価が変わっているポイントが、まさにこのCounterpointsが達成しようとしていることであると、考えられます。

また少し蛇足なコメントですが… この論文で紹介されているアプローチは非常に興味深いのですが、実際に集計された選手のランキングや実装方法がかなり説明不足であると感じました。下記のGitHubレポジトリーでは過去のトラッキングデータが公開されていたりするので、将来的に提案された手法を実際に試してみたいと思いました。

github.com

まとめ

今回は、過去のエントリー同様に、ゆるくNBA×データ分析についてまとめました。 NBAに関わらず、国内の研究事例など、関連する研究があれば是非とも教えていただきたいと思いました。

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それでは、明日は12日目のよたろさんによる記事です!引き続き楽しみです!

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