『魔王』 読書感想

伊坂幸太郎作、『魔王』を読みました。
あらすじ
超能力を持つ安藤がある政治家の出現に対して大衆とは違った視点から危機感を抱くというのが話の根底にあります。これはオペラ魔王に出てくる子供ように表現されているため、タイトルも『魔王』となっています。その超能力というのが自分が思ったことを他人に喋らせられるという腹話術。犬養という政治家にたいして問題意識を常に持ち、彼が疑問に思うことに対して、考察を巡らせるというお話です。
ボリューム的には読了するのには時間がかからずにサクッと読めました。けども、話の終わり方などが綺麗ではなく少しばかり歯がゆい感じも残りました。
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政治的なお話

政治家の使命感と責任感が低く、国民は怠惰で身勝手だ。国が滅びても、自分だけは助かるのだと、国民はおろか政治家ですら信じている。by 犬養

自分にとって印象的なセリフでした。自分も年齢的に一度しか投票に参加したことがないですが、政治ってどこか自分とは違った世界のような、さらには自分の一票で何が変わるのか?とかってことを考えたりしました。政治について他人事のように感じていたこともあったし、そう感じている若者って意外と多いのではと今でも思います。そして、実体験ですが、いざ自分が支持する政党とか人とかってものを選んだり、決める際にも結局は消去法で最後に残ったものに投票したのを覚えています。なんか結局は妥協で選んだりすることなど思うところはたくさんありますし、そういったことを考えると作品の中の日本国民が犬養に魅了されていく気持ちってのも少しは理解できるなぁと思います。

さらに作中では宮沢賢治の『注文の多い料理店』での一連の流れを、ファシズムにいつのまにか飲み込まれていく民衆との共通点などが指摘されていたのが興味深かったです。

有能な扇動者とは、その本人たちも気づかないような流れを、潮を、世の中の雰囲気を作り出すのが巧みな者のことを言うのではないだろうか。

犬養という政治家の出現で国民が『注文の多い料理店』でお店に迷いこんだキキャラクターのように、気づかぬうちに誘導される。この状況を安藤は日本全体がファシズムへと流されていくのではないかと、流れに逆行する考えを提示しています。
一個人によって集団が導かれるのと同様に、それによって形成された集団の中の流れのようなものの存在。ハロー効果のように科学的に証明されているように集団心理というものが怖いものだとつくづく思いましたね。その流れを正しい方向へ変えるということも重要ですが、それだけが最善の策であるとは言い切れません。そのような流れの中でも、自分の立ち位置を第三者の目で観察できる能力と、流れ全体を俯瞰できる視点を持てるか否かによって個人の価値が決まると自分も強く思いました。その考え方を再認識させてくれるような部分であったなと思います。

情報とは

お前たちのやっていることは検索で、思索ではない。by犬養

なんでもかんでもインターネットで調べれる世の中で、だんだん情報とか知識が薄っぺらになっているじゃないか。お前が言ったコンビニの味気なさと似ていないか?物や情報は一緒でも、どこか薄いし、ぺらぺらだ。by安藤

この部分はストーリーの流れには関係ない部分でしたが、なるほどな、と思いました。確かに、検索する能力や外部からの情報をいち早く得るという能力は今の時代にとって重要な能力であると自分は思います。しかし、そのような情報を得たからと言って、思考の過程やアウトプットの仕方は様々。どんな情報でも欲しいときに手にいれることができる時代だからこそ、これまで以上に、そこから得られる考え方、アウトプットの仕方なんかで個人の特徴や市場価値が顕著に現れるんだなぁと感じました。

まとめ
単に、超能力がある登場人物がある人物に対して、立ち向かっていくという物語ではなかったです。もう少し複雑で、個人の考え方、政治や社会情勢に対する個人の姿勢なんかが深掘りされて書かれていました。そこが楽しめた点であり、だからこそ何か一つの結果で作品が終焉するのではない、もどかしさなんかもありました。この続編がまだ小説で出ているようなので、今度読んでみようかとも思いました。みなさんもよければお読みください。

P.S.
もうすぐ夏休み。
友人と輪行してサイクリングに行こうかと思ってますがどこが良いだろう?
今までしたことがあるロングライドは琵琶湖一周、しまなみ海道の二つだけ。全然初心者ですけど、今年も思い出に残るロングライドをしたい!
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海とか湖が見えるところでサイクリングするのが最高に好きです。